Research

1.液中の局所環境を測定するためのマイクロガラス電極の開発

2.マイクロ・ナノギャップに生じる非定常イオン輸送現象の解明

3.水溶液における電気流体力学(EHD)流れの生成

4.化学反応を伴う分子動力学シミュレーション

5.液体微粒化過程の解明と噴霧特性の評価

 

1.液中の局所環境を測定するためマイクロガラス電極の開発

マイクロガラス電極によるpH測定

電解質溶液で満たされたマイクロ流路に,外部より電場を印加すると微弱なイオン電流が生じます.流路の構造によって電場の強弱が変化し,帯電した微粒子や生体高分子は電場による静電気力を受けて輸送されます.粒子を効率よく輸送し,また検知するためには,流路内部の電場分布を理解することが重要になります.本研究では,ガラス管を伸長してその先端径を1 μm以下とし,そこに電解質液と銀塩化銀線を挿入したマイクロガラス電極を用いることにより,流路内部の局所的な電場の測定を実現し,さらには導電率の解析から塩濃度の特定に成功しました.また,ガラス管を2連管(2本のガラス管を束ねたもの)としたガラス電極を作製し,一方に緩衝液を他方に電解質溶液を充填することで,試料液のpHを計測することに成功しました.(K. Doi, N. Asano, and S. Kawano, Sci. Rep. 10: 4110 (2020))

2.マイクロ・ナノギャップに生じる非定常イオン輸送現象の解明

(a)マイクロ・ナノギャップ電極対と(b)イオンの濃度分布

液体中のイオン輸送現象は,イオンの電気泳動(伝導),拡散および移流からなると考えられます.各現象は,時間と空間のスケールが異なることから,液中に電圧が印加された直後から定常状態に至るまでの非定常現象を調べると,液中におけるイオンの振る舞いの詳細を知ることができます.ナノメートルからミリメートルまでの広範囲で電極間距離を変え,電圧の印加に対するイオン電流応答を理論的に予測し,また実験的に計測しています.電圧を印加した直後に電極表面がイオンによって覆われるために電場が遮蔽され,その後,電極から離れた沖合の濃度場が緩やかに形成されることが確かめられました.(K. Doi et al., J. Phys. Chem. C 118 (2014) 3758-3765)

3.水溶液における電気流体力学(EHD)流れの生成

電解質水溶液に約2Vの印加電圧で電気流体力学(EHD)流れを生成

マイクロ・ナノ流体デバイスにおける液体駆動方法として電気流体力学(EHD)流れや電気浸透流(EOF)が注目されています.いずれも,液中に外部から電圧を印加してイオンにクーロン力を作用させ,それに引きずられるように液体が駆動される現象です.しかしながら,液中には陽イオンと陰イオンが存在することから,どちらかのイオンが支配的に動くときにだけ流動が発生します.さまざまな方法が提案されていますが,私たちはイオン交換膜を用いてイオンの通り道を分けることにより,水溶液中で2Vの低電圧でEHD流れを駆動することに成功しました.マイクロ・ナノ流路に特有のEOFに加え,さらに大きなスケールでも液体の駆動が可能となりました.(K. Doi. F. Nito, and S. Kawano, J. Chem. Phys. 148 (2018) 204512; K. Doi, A. Yano, and S. Kawano, J. Phys. Chem. B 119 (2015) 228-237

4.化学反応を伴う分子動力学シミュレーション

ひずんだグラフェン表面に対する水素分子の解離吸着シミュレーション:
(a)解離吸着が起こらない場合と(b)解離吸着が起こる場合

グラフェンのような炭素原子からなる二次元構造の表面は,電子の雲に覆われていると考えられています.このような安定な表面に原子や分子が衝突してもそれらは反発します.一方で,グラフェン表面が少しひずんでいたり,他の元素が添加されたりすると,電子の雲に偏りが生じ,衝突する原子や分子との間に電子の移動が生じて吸着が起こることがあります.一般的な分子動力学シミュレーションでは,電子の移動が考慮されないため電子の移動を伴うような化学反応系のシミュレーションをすることは難しいですが,私たちは,第一原理計算を用いて電子の移動を伴う分子動力学シミュレーションを可能にしました.これにより,部分的に立体的な構造を持つグラフェン表面において,衝突する水素分子が解離してさらに吸着する一連の過程を示すことに成功しました(上図).これにより,物質表面における水素分子の解離吸着や吸着脱離現象をシミュレーションすることができ,水素吸蔵合金などの材料設計に関する応用も期待されます.(K. Doi, I. Onishi, and S. Kawano, Comput. Theor. Chem. 994 (2012) 54-64

5.液体微粒化過程の解明と噴霧特性の評価

気流中における液滴の変形と崩壊(瞬間写真)

液滴分裂・液柱分裂などの液体微粒化過程について高速度ビデオカメラ等を用いて可視化することにより、微粒化機構の詳細を探っています.また,噴霧特性を光学的に計測する簡易粒径計測システムの開発を進めています.その他,気液界面を伴う熱流動現象,浮力により駆動される流れと熱伝達などについて,実験・数値計算の両面から研究しています.